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最高裁判所第一小法廷 昭和29年(さ)7号 判決 1955年2月24日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月に処する。

但し右刑の執行を懲役一年三月に減軽する。

原審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

検事総長佐藤藤佐の非常上告の理由は、末尾添付の別紙書面記載のとおりである。

案ずるに、被告人尾上要外一名にかかる窃盗被告事件の記録に徴すれば、昭和二七年六月七日神戸地方裁判所は、被告人尾上要は外数名と共謀して昭和二五年九月二八日夜神戸市生田市高浜町所在住友倉庫(通称高浜倉庫)から、米軍保管にかかる軍用ズボン一〇梱包(五〇〇着)をトラックで搬出して窃取したとの犯罪事実を認定して、窃盗罪として同被告人を懲役一年六月に処する旨の判決を言渡したこと、該判決に対しては同被告人から控訴の申立があり、昭和二七年一一月一七日大阪高等裁判所において控訴棄却の判決が言渡され、該判決は上告の申立がなかったので同年一二月二日確定するに至ったこと、同被告人は右第一審判決言渡前昭和二五年一一月二一日神戸占領軍軍事裁判所において、右と同一犯罪事実につき窃盗罪として重労働六年の刑に処せられ、同日以後昭和二七年四月二八日まで一年五ケ月余にわたりその刑の執行を受けたものであること、並びに右軍事裁判及び受刑の事実は本件第一審裁判所において審理中に明らかにされていたところであることが認められる(本件懲役刑の執行は、同被告人に対する他の懲役刑の執行に引続き昭和二九年一二月一四日から着手せられ、目下執行中であることは、検察官提出の神戸刑務所よりの報告文書によって認められる)。

そして、占領軍軍事裁判所の裁判を経た犯罪事実と同一事実につき、刑法五条によりわが裁判所において更に処罰する場合において、既にその軍事裁判による刑の全部または一部の執行を受けた事実があれば、わが裁判所は刑の言渡と同時に判決主文でその刑の執行の減軽または免除の言渡をしなければならないものと解するを相当とする(昭和二八年(あ)第八八二号、同二九年一二月二三日第一小法廷判決参照)。されば、本件被告事件について、原審裁判所は神戸占領軍軍事裁判所の裁判を経た窃盗の犯罪事実と同一の犯罪事実につき、被告人尾上要に対し懲役一年六月に処する旨の判決を言渡すに当り、その軍事裁判の受刑の事実を参酌して右言渡刑の執行の減軽または免除の言渡をしなかったことは、刑法五条但書に違反したものというべきであって、本件非常上告は理由があり、また原判決が同被告人に対し刑の執行の減軽または免除の言渡をしなかったことは、被告人のため不利益であるから、刑訴四五八条一号但書により、原判決を破棄し本件被告事件につき更に判決することとする。

原判決の確定した事実に法律を適用すると、同被告人の窃盗の所為は刑法二三五条六〇条に該当するから、その所定刑期範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、なお前示軍事裁判所の裁判による受刑の事実を考慮して、刑法五条但書により右懲役刑の執行を懲役一年三月に減軽すべきものとし、刑訴一八一条により原審における訴訟費用は同被告人の負担とする。

よって、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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